【KOTOKO STRIKES(後編)

それ程激しく動いたつもりは無かったのに、俺は激しい疲労を覚えた。
いや疲労というより人生の一大事を終えて、張っていた気が一気に弛緩
したといった感じか。琴子さんがイッたのかどうかは分からない。
AVではあるまいし、ましてや処女の子が「イク!」などと声を上げる
訳が無い。ある程度は感じてくれていたものと信じたいが…。野郎と
違って女性は一戦交えた後も急速に萎える事がないので、アフターケアを
ちゃんとしなければならない…といった事を知識としては知っていたが、
俺ときたら琴子さんに労いの言葉すらかけず、分身を引き抜くと荒い息を
吐きながら琴子さんの横にどさっと仰向けに倒れ込んでしまった。
もしかすると一瞬意識を失うか、眠ってしまっていたのかも知れない。
我に返って(あ、拭かなきゃ。いや、その前にまず琴子さんに…)と
思っていると、琴子さんが下の方に移動する気配が感じられた。
(?)と訝っていると俺のモノが覚えのある柔らかい感触に包まれた。
(あ…!)
琴子さんが所謂『お掃除フェラ』をしてくれているのだと気付き、俺は
一瞬にして復活を遂げていた。
「きゃっ!?」
「あ…、ご、ごめん。琴子さんにそんな事までさせてしまって。」
「それは気にしなくていいわ。でもビックリした。ふふ…もしかして
まだ物足りない?」
「う…」
おっ勃(た)てて否定したところで説得力皆無だ。
「男の子のここって正直で可愛いわ。…私は…構わないわよ?」
「え…?」
「お疲れのようだから、そのままにしていて。」
応える暇も与えず、琴子さんはこちら向きに馬乗りになり、自身に
俺のものをあてがった。先程の余韻か新たに興奮して湧き出したのか、
もうすっかり準備は出来ていたらしく、俺はすんなりと飲み込まれた。
「ふぅっ!」
琴子さんは切な気な声を上げたが、もうあまり痛みは感じないようだ。
しかし、俺にあまり体重をかけないように気を遣っていてくれるためか
上手く動けないでいた。
「琴子さん。俺の身体に手を置いて体重かけちゃっていいから?」
「だ、大丈夫?」
「ああ、平気さ。」
琴子さんは俺の胸に置いた手を支点にして上下運動を開始した。
最初はぎこちなかったが、だんだんとスムーズな動きになっていった。
琴子さんは気付いていないのかも知れないが、この体勢は暗さに慣れた
目には薄暗い室内でも琴子さんの夜目にも白い抜群のプロポーションを
視覚で堪能する事が出来るのだ。視線を落とせば結合部も視認出来る。
素晴しく扇情的な光景だ。
琴子さんは「んっんっんっ…」と規則的な呻き声を上げながら一生懸命
腰を上下させている。目を瞑って上気した顔が可愛い。しかしあまり
顔ばかり見ていると視線に気付かれるかも知れないので視線を落とす。
はっきりとは判らないが、俺の分身は白濁した泡立つ液体に包まれて
いるみたいだ。逆流した俺自身のモノなのかも知れないが話に聞く
「本気汁」と言うヤツかも知れない。いずれにしろ内部が充分に潤って
いるせいか、一度目の時の一種凶悪な刺激は軽減され、初心者の俺でも
琴子さんの内部の感触を落着いて楽しむ事が出来る。その部分が湿った
モノを吸引するようなジュブッジュブッという淫微な音をたて始めていた。
俺にとっては、研究のため観ていたAV等でお馴染みの音だ。琴子さんが
懸命に動いてるのは、俺を感じさせようとしてくれているのだと思うが、
明らかに自分自身が感じてしまっていた。この暗さでも全身がピンク色
に染まっているのが判る。遂には感じ過ぎてしまったのか、
「ああ……」と喘いで動きを止めてしまう。軽く達してしまったのかも
知れない。暫く待ってみても再開する気配がない。そこで俺は自分から
動いてみる事にした。それまで俺は騎乗位というのは一方的に女性の
動きに支配されるものなのだと思っていたが、そんな事はなかった。
下から突き上げる事が出来るし、特に琴子さんは長身の割に軽いので
彼女の身体をコントロールする事は容易だった。それでも上に乗られて
いるというのは、やはり支配されているような感覚があり、さっきの
正常位とはかなり感じが違った。俺は琴子さんの腰を両手で抱え、
自分の腰を沈めては琴子さんを持ち上げ、突き上げては琴子さんの
身体を自分に向けて打ち付ける…という行為を繰り返した。俺は決して
怪力ではないので琴子さんの協力がなければ無理なのだが。…これは
支配されながら、逆に自分が支配しているという倒錯的な感じ?…いや
違うな。やはり女王様に奉仕している下僕という感じだ。所詮俺には
そっちの方が似つかわしいと思う。いいんだ、それが幸せなんだから。
やがて琴子さんは両手で上半身を支える事が出来なくなってしまって、
俺の方に倒れ込んできた。そのまま俺は容赦なく動き続けた。このまま
続けても良かったのだが、さすがにこの体勢を続けるのは辛くなってきた。
俺は上半身を起こして対面座位の形になった。視覚的な刺激は減ったが
これも身体が密着して素晴しい。俺達は繋がったまま濃密なキスを交した。
ぷはっと口を離すと琴子さんは俺の頭をぐっと抱き締めた。
「はぁ…。凄いわ君…。さっきと全然違うのね。」
……うーむ。やっぱりさっきはイケなかったんだなきっと。まあ無理も
ないか。でも、全然違うという言葉が俺を勇気付けてくれた。今度は
全身で琴子さんを突き上げて浮かせ、タイムラグを利用してその間に
腰を沈め、落ちてくる琴子さんを突き上げて…という繰り返しだった。
上半身が密着しているので、耳元で琴子さんの官能的な声が聞こえる。
しかし、この体勢日頃の運動不足が祟り、体力的にきつくなってきていた。
それにもう少し自由に動きたいという思いもあり、琴子さんの膝を抱え
仰向けに寝かせた。これは屈曲の正常位というヤツだろうか?
「琴子さん平気?身体辛くない?」
「う…うん。平気よ?」
そうは言ったものの彼女は凄く恥ずかしそうだ。可愛い。密着感は減ったが
少し征服感があるし、腰もかなり自由に動かせる。俺はスピードの緩急や、
深度、ストロークの長さに色々変化を与えてみた。回転や捻りも加えた。
少し上半身が離れているので先程の騎乗位ほどでは無いものの、琴子さんの
姿を子細に眺める事が出来る。琴子さんの声や様子から、徐々に追い込んで
いるらしいのが実感出来た。俺は奮起して今の自分なりに精一杯の技術を
駆使して更に攻め立てる。このままフィニッシュ…とも思ったが、あまり
手の自由が利かないのが不満に思え、少し考えて挿入したまま琴子さんの
身体を横向きに回転させ後ろから抱きつく形になってみた。よく分からんが
背面横臥位とでも言うのだろうか?視覚的な刺激はほぼ無くなったが、
密着感が凄い。何より太股に当る琴子さんのヒップの感触が心地よい。
表情を見れないのも逆に想像力を掻き立てる。俺は気に入った。口の側に
琴子さんの耳がある。…順序が滅茶苦茶な気もするが、どうしても言って
おかなければならない言葉を伝えたい、と思った。
「今更だけど好きだ、琴子さん。もうずっと前から琴子さんとこうなりたい
と思っていたんだ…。」
「う…うん。私も…。」
琴子さん自身の口からこの言葉を聞けただけで満足だった。そう。俺が彼女を
苦手としているなんて本当は大嘘だ。実際は彼女にガミガミと小言を言われる
事を心から楽しんでいたんだ。……マゾと言いたい奴は言うがいいさ。
初めて会った時から琴子さんは気になる存在だった。思えば最初から彼女に
惹かれていたのだと思う。程度の差こそあるのかも知れないが、琴子さんも
俺を好いていてくれたのだろうと信じたい。彼女は好きでも無い男に身体を
開くような女の子では断じてない筈だ。そもそも本当に嫌いな相手なら小言を
言うどころか口もきかないだろう。彼女なりの愛情表現なのかも知れない。
俺は首筋にキスしながら左手で乳首を、右手でクリトリスを同時に攻めた。
「あっ…!だ…駄目よ…おかしくなっちゃう…」
「いいよ…。二人で気持良くなろう?」
「ば…馬鹿…。」
その後は会話を続ける余裕が無くなったようで、琴子さんの喘ぎ声は
どんどん大きくなっていった。やがて彼女はしきりに聞き取る事が困難な
語尾に長音を伴うごく短い単語を繰り返し繰り返し発するようになった。
最初何と言っているのか全く判らなかったのだが、その内に俺の名前を
呼んでいるのだと気付いた。とフルに呼ぶ余裕も無くなってるようだ。
絶頂が近いのかも知れないと思うと更に愛しさが増した。俺の方も限界が
近付いていたので、頃合とみて更にストロークを強めていった。
「あっ…、あっ…、っ…っっ!」
「琴子さんっ!」
短時間で三度目の…だったが、我ながら呆れる程長く大量に放出した。
同時に果てたという確信で、前の二回より更に深い感動を覚えていた。
今回は俺も余韻を楽しむ余裕があって、繋がったまま互いの呼吸が整うまで
抱き締めていた。俺はまだ完全に萎えてはおらず、押し出されるような
事は無かった。そのまま抜かずに更に三回戦に突入する事も可能に
思われたが、ふと気が付くと琴子さんは安らかな寝息をたてていた。
時計を見ると10時半を少し回ったところだ。長く感じられたが案外時間は
経っていなかった。しかし琴子さんにしてみれば普段ならとっくに寝ている
時間なんだろう。何かのマンガだったか女の子が裸のまま寝てしまえるのは、
よっぽど相手を信頼して気を許している時だけだと書いてあるのを読んだ
気がするのだが、本当かどうか分からない。俺がいつも寝る時間までには
まだ随分とあるのだが、俺も睡魔に襲われていた。挿入したままという事も
考えたが、それはやめて慎重に引き抜いた。琴子さんが少し反応して、
「嫌ぁ…」
と言ったので起こしてしまったかと思ったが寝言だったようだ。
起こさないように慎重にティッシュで琴子さんのその部分を軽く拭う。
自分も拭いた後、服をどうしたものかと思案したが、いくら琴子さんが
軽いとはいえ、眠っている子に服を着せるのは無理があるように思えたので、
暖かくして眠る事にする。目を覚ました時、俺だけ服を着ているのも変なので
俺も全裸のままだ。電気敷毛布のスイッチを入れ、布団を被って身体を密着
させた。眠りに就いてから短時間剥き出しになっていただけなのに、
琴子さんの身体は少しひんやりしていた。俺の火照った身体には心地よかった。
また少し俺のモノは硬度が増してきたが、寝ている彼女を襲う訳にもいかない。
しかし然程長い時間悶々とする事も無く、睡魔には勝てず俺も深い眠りに
誘われていった。

翌朝目を覚ますと隣りに琴子さんの姿は無かった
急に不安に襲われた。俺の方は昨夜琴子さんと恋人同士になれたと思って
いたのだが、琴子さんの方では酔った勢いの一晩の過ちと思っていたら?
それどころか今までの普通の友人関係(というか主従関係?)まで崩れて
ギクシャクしたものになってしまうとしたら? …普通こういう不安って
女の子の方が持つものなのかも知れないが、仕方ないだろう。情けないが
彼女の方が精神的には常に優位に立ってるんだから。
いてもたってもいられなくなって、俺は服を着て部屋を飛び出した。
階下からトントンというリズミカルな音が聞こえる。聞き間違いでなければ、
これは包丁がまな板を叩く音だ。慌ててキッチンに向かうと琴子さんがいた。
昨晩のトレーナーの上下の上に俺が部屋着にしている分厚いウールの襟つき
カーディガンをちゃっかり着用している。
どうやら朝ご飯を作ってくれているらしい
「あ、お早う君」
笑顔で振り向いた琴子さんは、しかし次の瞬間険しい顔になって苦情を言った。
「もうっ。どうしてこの台所は北向きなのに暖房がない訳?
今度来る時までには暖房付きの敷物くらい買っといてよね?」
普段通りの遠慮のない口調だ。俺は安堵のあまり不覚にも涙が出そうになった。
「なにボーッと突っ立ってるの? すぐ出来るから座って待っててね。」
我ながら間抜けな面で座り、調理する琴子さんの後ろ姿を眺めていた。料理中の
奥さんの後ろから抱きついてバックからやってしまいたくなる亭主の気持ちと
いうのがよーく分かったが、ここはぐっと我慢する。
「お待たせ。さ、食べましょ。大したものは出来なかったけれど。」
確かに冷蔵庫にあった食材はロクでもない余り物だけで、大したものは
無かった筈だが、出来上がったものが大したものじゃないと言うのは明らかに
謙遜だった。この味噌汁の具になってる細目の千六本に見える大根なんかは、
何かに使えるかと思ってとっておいたスーパーの刺身の添え物だ。魚の生臭さ
などは全く無く、ちゃんとシャキッとした大根の歯応えも残されている。
味噌はダシ入りのがあっただけの筈だが、味噌汁自体の味も俺が適当に
作るのとは全然違う。こちらはベーコンとタマネギのサラダ…というか
マリネか? 辛いものが苦手な琴子さんに合わせているのか、タマネギは
生っぽいのだが刺激は取り除かれ、炒めたかのように甘味のみが際立っている。
これは竹輪と茄子を卵でとじたものか。ダシが効いていて美味い。茄子は先に
油通しをしてあるのかな? 竹輪にはよく解らないが何やら複雑な下味が
付いているようだ。ご飯はジャーに放置してあったヤツだと思うんだが、
ぱさぱさでは無く、ふっくらと炊き上がりみたいになっていた。いずれも
どんな魔法を使ったのか、俺にはさっぱり分からなかった。ウチには基本的な
調味料と本だしくらいしか無い筈なのだが…。俺は彼女は料理が上手くなければ
駄目だといった関白な考えは持っていないが、(ま、琴子さんに惹かれた時点で
それは明らかか。)やはり手料理が美味しいのは嬉しい。まず胃袋を捉まえる
というのは言い得て妙だと思う。

「ご馳走さま。ふうっ美味しかったあ。」
「ふふ。お粗末様。」
客人に何から何まで甘える訳にはいかないので、後片づけを手伝いながら
俺は聞いた。
「えーと。今日学校はどうする?」
「私は…遅れて行く事にするわ。私、あなたとの事を秘密にするつもりなんて
全くないけど…」
そこで琴子さんは顔を赤らめた。
「さすがに朝あなたの家から出るところを誰かに見られるのは…ね?」
俺も思わず赤面した。
「どのみち昼間に出るのはリスクが大きいよ? 日が落ちてから一緒に出よう。
送っていくよ。」
「ありがとう。頼もしいナィ…彼氏さん。」
騎士(ナイト)という外来語を発しかけて彼氏に変更したらしい。
どこまでいっても琴子さんは琴子さんである。しかし彼氏か…いい響きだ。
時間が来たので俺は支度をして出かける事にした。一日琴子さんと一緒に
いたいという誘惑にも駆られたが、二人で休んだりすると変に勘ぐられない
とも限らない。
「じゃあ、行ってくるね。」
「あ、待って。」
琴子さんは俺に近付いて軽くキスをすると、悪戯っぽく言った。
「行ってらっしゃい、あ・な・た。」
反則だろそれは…。完全に捉まったと思った。いいさ、願わくばずっと
捉まえたまま離さないでいて欲しい。